世界的スポーツブランドであるナイキは、長年にわたり業界をリードし続けてきました。しかし、近年は在庫圧力や競合の台頭など複数の課題に直面しており、特に2024年以降は業績回復と戦略転換が大きなテーマとなっています。
こうした状況のなか、ブランドの競争優位性や成長の可能性を冷静に分析する手法として「SWOT分析」は非常に有効です。本記事では、ナイキの【強み】【弱み】【機会】【脅威】を丁寧に整理し、さらにクロスSWOT(TOWS)を通じて今後の戦略的方向性を明らかにしていきます。
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ナイキの現状総覧|業績・戦略・市場環境
ナイキは2024年通期において、売上高は微増ながらも純利益が前年同期比で10%以上減少。在庫の積み増しと販管費の増加が主因とされました。また、人気シリーズへの依存や、スニーカー市場の成熟によって、従来の成長ドライバーが鈍化しつつある状況です。
その一方で、女性向けアパレルブランド「SKIMS」との提携やアスレジャー市場への注力、新興市場での成長戦略など、新たな挑戦も始まっています。2024年後半には新CEOとしてエリオット・ヒル氏が就任し、D2C強化とサプライチェーン最適化による立て直しが進行中です。
ナイキのSWOT分析

強み(Strength)
- グローバルブランド力と認知度
ナイキのスウッシュロゴは世界中で認知されており、「スポーツ=ナイキ」として消費者に強く印象づけられています。 - 革新的なテクノロジーと製品開発力
Air Max、Flyknit、Nike Adaptなど、独自技術を搭載した商品を次々と投入し、テクノロジーでの差別化を実現しています。 - D2C(Direct to Consumer)戦略の加速
公式アプリやNike.comを通じて消費者と直接つながるビジネスモデルに移行し、収益性の改善と顧客データ活用が進んでいます。 - 著名アスリートとの契約力
マイケル・ジョーダンをはじめ、レブロン・ジェームズや大坂なおみなど、影響力のあるアスリートとの契約によりブランド価値が向上しています。
弱み(Weakness)
- 在庫圧力と需給の不均衡
特に2023〜24年にかけて在庫が過剰となり、割引販売が常態化。ブランドイメージの毀損や利益率の低下を招いています。 - 特定ラインへの依存
Air JordanやAir Force 1など、一部シリーズへの売上依存が高く、商品ポートフォリオの偏りが指摘されています。 - 労働環境・サプライチェーンの批判
アジア工場での労働環境や倫理的製造に関する批判が、SNSなどを通じてブランドリスクに発展するケースもあります。
機会(Opportunity)
- SKIMS提携による新市場開拓
Kim Kardashianとの提携による「SKIMS × Nike」コラボは、女性向けアスレジャー市場での存在感を強めるきっかけとなっています。 - アスレジャー・ライフスタイル市場の成長
スポーツ×日常着の需要が増加しており、ファッション性と機能性を兼ね備えた商品の展開が期待されています。 - 新興国市場での成長余地
インド、東南アジア、南米など、経済成長が進む市場におけるスポーツ文化の浸透はナイキにとって大きな機会です。 - サステナブル戦略へのシフト
環境に配慮した素材やリサイクル製品の開発により、ESG投資やZ世代の支持を獲得しやすくなっています。
脅威(Threat)
- 競合ブランドの攻勢
New Balance、Hoka、lululemonなど、新興ブランドが差別化された商品で市場シェアを獲得しつつあります。 - 景気後退やインフレの影響
高価格帯商品の購買力が落ちるなか、価格感度の高い層へのアプローチが求められています。 - 模倣品の増加と知的財産リスク
人気商品のコピーが横行しており、ブランド価値の低下を招く恐れがあります。 - 地政学的リスク
米中関係や中東地域の不安定性が、工場や販売網に影響を及ぼす可能性があります。
クロスSWOT(TOWS)分析
組み合わせ | 戦略提言 |
---|---|
S × O | ブランド力とSKIMS提携を掛け合わせ、女性市場とアスレジャー領域でのリーダーシップを確立 |
S × T | 革新技術・D2Cの強みを活かし、価格競争を回避しつつ模倣品への対抗策を強化 |
W × O | 在庫構造改革と商品ラインの多層化により、新興市場や中価格帯セグメントを開拓 |
W × T | 労働問題やフランチャイズ依存を見直し、ESG経営と安定供給体制の構築を進める |
ナイキへの戦略提案
- 在庫最適化と価格レンジ戦略
需要予測AIの導入により在庫の過剰・欠品リスクを抑え、低中高価格帯のバランスを取ったラインアップで広い顧客層に対応すべきです。 - SKIMSとの共創による女性層の深耕
単なるスポーツウェアではなく、機能性と美しさを両立するアパレルとして展開することで、新たなブランドイメージを確立できます。 - サステナビリティのブランド軸化
再生素材「Nike Grind」やカーボンニュートラル工場などを前面に出し、環境意識の高い消費者への訴求を強化しましょう。 - グローバルD2C戦略の深化
アプリのパーソナライズ強化、ロイヤルティプログラムの拡充、地域限定商品の投入などにより、地域ごとの顧客接点を強化できます。
まとめ|SWOT分析で見えるナイキの「勝ち筋」
ナイキのSWOT分析とTOWS分析を通じて明らかになったのは、「ブランド力と技術力を活かし、在庫課題と社会的責任にどう向き合うか」が今後のカギであるということです。
競争環境が激化し、消費者の価値観が変化するなかで、ナイキが目指すべきは“単なるスポーツブランド”ではなく、“文化を生むブランド”としての立ち位置。
そのためには、革新性・柔軟性・責任性という3つの柱をバランスよく育てていく必要があります。
そしてこの分析は、他の企業にとっても示唆に富んでいます。「強みを活かし、機会を掴み、弱みと脅威に備える」——まさにSWOT分析の真価が発揮される局面に、ナイキは立っているのです。
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