任天堂は「ゲーム機を作る会社」ではありません。
世界中の家庭で愛され、世代を超えて共有される“体験”を設計するブランドです。

PlayStationやXboxが高スペック・ハードコアゲーマー向けにシフトする中、任天堂は「家族・子ども・ライト層」など、“市場のど真ん中”から外れた領域で独自の存在感を確立してきました。

その根底にあるのが「STP戦略」です。
この記事では、セグメンテーション(市場細分化)・ターゲティング(標的市場)・ポジショニング(差別化)という3つの視点から、任天堂の成功の理由を解説していきます。

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STP分析とは?【マーケティング戦略の基本】

STP分析とは?

STP分析は、マーケティング戦略を設計する上で欠かせない3ステップの思考法です。

要素内容
Segmentation(市場細分化)顧客の特徴・価値観・行動で市場を分ける
Targeting(標的市場の選定)最も自社と相性の良い層を狙う
Positioning(差別化・認知の設計)顧客の頭の中に「自社の立ち位置」をつくる

任天堂のマーケティングの特徴は、“スペック”や“性能”を重視せず、あくまで「体験価値」で勝負することです。この思考がSTPにどう活かされているのか、順を追って見ていきましょう。

セグメンテーション:任天堂が見ている多層的なゲーム市場

セグメンテーション

任天堂の市場細分化は、ゲーム業界の中でもかなりユニークです。
他社が「ゲーマー向け」「プロ向け」「FPS層」などに焦点を当てる中、任天堂はより生活に近い軸で市場を分けています。

1. デモグラフィック(年齢・性別)

セグメント
年齢幼児~60代以上までポケモン、脳トレ、Wii Fit
性別男女問わず男女区別のないUI設計・デザイン
家族構成ファミリー・単身Switchのテーブルモードは家族向け、Liteは一人暮らし層向け

2. ライフスタイル

タイプ特徴対応タイトル
ファミリー型家族みんなで遊ぶスーパーマリオパーティ、あつまれどうぶつの森
カジュアル層ゲーム初心者、ライト層Nintendo Switch Sports、Wii系タイトル
ヘビー層マリオ、ゼルダ、スマブラなどのコアファン新作ゼルダ、スプラトゥーン

3. 志向性(ゲームに求める価値)

  • コミュニケーション志向:家族・友人との共有時間(例:マリオカート、あつ森)
  • 教育・知育志向:親が子に与える安心安全な遊び(例:ナビつき!つくってわかるはじめてゲームプログラミング)
  • 癒し・非現実志向:現実逃避や癒し(例:ピクミン、ヨッシー)

任天堂は、「競争」ではなく「共有・安心・創造性」に基づいたセグメンテーションを行っているのが最大の特徴です。

ターゲティング:任天堂が狙うメインユーザーとサブユーザー

ターゲティング

任天堂のターゲティングは、狭く深くではなく、「広く、かつ共感で深く刺す」設計です。

1. メインターゲット:ライト層・子ども・親子

  • 家族で遊べるゲーム体験を重視
  • ゲーム初心者でも操作できるUI設計
  • キャラクターも暴力的ではなく、親が“安心して与えられる”仕様

例:Switch本体の“ジョイコン”による直感的操作、スーパーマリオシリーズ、Nintendo Labo

2. サブターゲット:シニア・非ゲーマー層

  • 脳トレ、Wii Fit、リングフィットなど、ゲーム機を「健康・頭脳の維持装置」として活用
  • 高齢者層でも楽しめる“教育的”な側面

例:東北大学川島教授監修の「脳トレ」シリーズ

3. 海外市場でのターゲティング

  • 北米・欧州:スマブラやゼルダの「レトロ×革新」軸でファン層を拡大
  • アジア(特に中国・韓国):教育・健康系コンテンツへの信頼感が強い
  • 親日イメージ+安全性+かわいさ=任天堂にとって“輸出しやすいパッケージ”

任天堂は、ハードスペックよりも“誰でも遊べる”操作性と、“共有したくなる”ゲーム体験を軸にターゲットを設定しています。

ポジショニング:任天堂が築いた独自のブランド価値

ポジショニング

任天堂のポジショニングは、以下の3軸で明確に設計されています。

1. 「家族で遊べる安心感」の象徴

  • 暴力表現・グロ描写がほとんどない
  • インターフェースも柔らかく、音楽や色使いも“優しさ”が軸
  • 家族全員で楽しめる「集まって遊ぶ文化」をつくった

2. 他社とのポジショニング比較

ブランドポジション特徴
任天堂家族・ライト層向け|非競争・共創型Switch・マリオ・どうぶつの森など
PlayStationゲーマー向け|高画質・高スペックAAAタイトル、FPS系多め
Xboxゲーム+サブスク志向|オンライン重視GamePassなどコスパ追求

任天堂は、「勝ち負け」「スペックの競争」ではなく、「共有する時間」「親しみのあるキャラクター」「記憶に残る遊び」を軸にポジションを築いてきました。

STP分析から読み解く任天堂の戦略的意図

任天堂のSTP戦略は、以下のような意図を持って設計されています。

  • **「誰にでも使える=全員に届ける」ではなく、「誰でも使えるから広がる」**という考え方
  • ハード・ソフト・体験を一体で設計し、「プロダクト」ではなく「価値ある時間」を提供
  • スペック競争から降りたことで、むしろ“選ばれるブランド”になった

これらの設計思想は、中小企業が「資本力」ではなく「顧客理解と設計力」で勝負する際のヒントになります。

まとめ:任天堂のSTP戦略に学ぶ、“売れる仕組み”のつくり方

任天堂は、「高性能なハードを作る会社」ではありません。
“みんなで楽しめる時間”という体験を商品化する会社です。

  • Segmentation:属性よりも“体験志向”で市場を細分化
  • Targeting:家族・ライト層・教育意識層に最適化
  • Positioning:“勝つため”ではなく“笑うため”のブランドポジション

これは、「誰に、どんな価値を、どんな形で届けるか」を丁寧に設計すれば、業界トップに立てることを証明しています。

STP分析は、売れる商品を作る手法ではありません。
“信頼される意味”を設計する戦略そのものです。

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