「お、ねだん以上。」のキャッチコピーでおなじみのニトリ。
誰もが一度は足を運んだことのある家具・インテリア量販店ですが、その裏には極めて戦略的なマーケティングが存在します。
ニトリは、ただ安い商品を売っている企業ではありません。
顧客理解と差別化の設計をベースに、STP分析(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)を的確に活用しているからこそ、長期的に「選ばれる存在」であり続けているのです。
本記事では、ニトリの成長戦略をマーケティングの基本フレームであるSTPに基づいて解説し、なぜここまで成功できたのか、その構造をひもといていきます。
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STP分析とは?【マーケティング戦略の出発点】

STP分析とは、以下の3ステップで市場を分析・設計するマーケティング戦略の基本フレームワークです。
要素 | 内容 |
---|---|
Segmentation(市場細分化) | 顧客を属性や価値観で分類する |
Targeting(標的市場の選定) | 最も価値を届けられる層を決める |
Positioning(差別化と立ち位置) | 顧客の頭の中で独自の立ち位置を確立する |
ニトリはこのSTP戦略を徹底し、「安かろう悪かろう」ではなく、「安いのにちゃんとしている」という逆転のブランドポジションを築いています。
セグメンテーション:ニトリが捉える多層的な市場

ニトリのセグメンテーションは、家具・インテリアという“生活密着型商材”ならではの視点から、ライフステージ・価値観・生活イベントなど多角的に構成されています。
1. デモグラフィック(属性)軸
軸 | セグメント | 商品例 |
---|---|---|
年齢 | 学生、新婚、子育て層、高齢世帯 | 一人暮らし用セット、介護用家具 |
世帯構成 | 単身、夫婦、ファミリー | セット家具、収納付きベッド |
所得層 | 低〜中所得層中心 | 高コスパ製品ライン |
2. サイコグラフィック(志向)軸
志向 | 特徴 | 商品・施策例 |
---|---|---|
コスパ志向 | 安くても品質にこだわりたい | 「お、ねだん以上。」コンセプト |
デザイン重視 | インテリア性も重視 | NITORI STUDIOシリーズ |
サステナブル志向 | エコ・長く使える商品を選びたい | 環境配慮型素材の活用 |
3. 行動軸(ライフイベント別)
- 引っ越し/新生活:春先に特設コーナー
- 結婚・出産:ギフト需要、ベビー用品
- 子どもの成長:学習机・2段ベッド
- 老後の備え:高齢者向け家具、手すりなど
このように、ニトリは商品ではなく“人生のタイミング”に合わせてセグメントを切り、提案を最適化しているのが特長です。
ターゲティング:ニトリが狙う顧客像

ニトリのターゲティングは非常に戦略的です。幅広く展開しているようでいて、軸となるターゲット層は明確に定められています。
1. メインターゲット:若年~中堅層の生活者
- 単身者、学生、新婚世帯、子育てファミリーなど
- 引っ越しや新生活など、家具の需要が高まる層
- 価格に敏感ながら、品質・機能性を妥協したくない
この層に対して、家具だけでなくキッチン用品・カーテン・寝具・生活雑貨までワンストップで提供することで、顧客の面倒を減らし、トータルで囲い込む構造を築いています。
2. サブターゲット:シニア・高齢者層
- 高齢者向けの機能付き家具(電動ベッド、手すり付きチェアなど)
- 介護に近い領域への展開
- 「整理整頓」「終活」に関連した収納ニーズにも対応
3. EC/インバウンド向けターゲティング
- 全国展開だけでなく、ECを活用して地方や店舗がない地域もカバー
- 海外(台湾・中国など)では、日本ブランドとしての信頼感で展開
このように、ニトリは単なる店舗販促に留まらず、“生活の全方位に接点を持つ”ターゲティング戦略を展開しています。
ポジショニング:ニトリが築いたブランドの立ち位置

「安いのにちゃんとしてる」「ここに来れば全部揃う」――
こうしたイメージは、偶然ではなく明確なポジショニング戦略の成果です。
1. ブランドスローガンの威力:「お、ねだん以上。」
このコピーは単なる宣伝文句ではなく、以下の3つの価値を言語化しています。
- 価格以上の品質:安かろう悪かろうの否定
- 価格以上のデザイン性:見た目も重視
- 価格以上の顧客体験:配送・組立・店舗サービスまで含めたトータル満足
2. 競合とのポジショニング比較
ブランド | 主な軸 | 特徴 |
---|---|---|
ニトリ | コスパ・機能性 | 安くて質も高く、全方位対応 |
IKEA | デザイン・体験性 | 北欧デザイン、DIY要素 |
無印良品 | 価値観・世界観 | ミニマリズム、統一感 |
ホームセンター系 | 実用性 | シンプル・DIY寄り・価格勝負型 |
ニトリは、価格と品質の“ちょうどいいバランス”を取りながら、圧倒的な商品数とサービスで差別化された独自のポジションを確立しています。
STP分析から見えるニトリのマーケティング戦略の本質
ニトリのSTP戦略から見えてくるのは、以下のような“売れる仕組み”の構造です。
1. 顧客視点の徹底
- 商品企画から店舗動線、価格設定まで、全ては「生活者の困りごと」起点
- 顧客インサイトを捉えた季節陳列やセット販売などが秀逸
2. 垂直統合で実現するローコスト×ハイバリュー
- 自社工場・物流・店舗・ECまで一貫管理
- 「商品力」だけでなく「提供コスト」「体験設計」でも差別化
3. 一貫したブランド体験の構築
- 安心して買える
- すぐ持って帰れる
- 生活全体をサポートしてくれる
つまり、ニトリは「商品」ではなく「生活者の成功体験」を売っているのです。
まとめ:ニトリのSTP分析に学ぶ、“選ばれる理由”の設計方法
ニトリの成功は、単に“安い”からではありません。
**「誰に・どんな価値を・どんな体験として届けるか」**という、STPに基づいた戦略の積み重ねにあります。
- セグメント:生活ステージや価値観に合わせて多層的に分類
- ターゲット:明確に新生活層を狙いつつ、周辺もカバー
- ポジション:価格だけでなく「生活体験そのもの」に焦点を当てた立ち位置
中小企業でも、この視点を持つことで、自社の強みを尖らせ、「安さ」だけに頼らない差別化が可能になります。
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