不動産業界は、その特性上、他の業界とは異なるマーケティング戦略が求められます。不動産の購入や賃貸は高額で長期的な投資となるため、顧客の意思決定プロセスも複雑で時間がかかります。そこでマーケティングが重要になってくるのですが、私が思うに不動産業界は、まだまだマーケティングに関して十分に効果的な戦略を持ち合わせていない気がしています。
特に、この記事のタイトルにあるようにHOW(手法)にばかり焦点を当て、本質的な戦略立案が疎かになっている企業が多いように感じます。SEO対策やリスティング広告、SNSマーケティングなど、手法に関する情報は豊富にありますが、それらをどのように統合して効果的なマーケティング戦略を構築するかについての議論は少ないように感じるのです。
この記事では、具体的な手法にとらわれず、戦略的な思考を重視したマーケティングアプローチについて解説します。不動産業界でのマーケティングを成功させるためには、まず「誰に」(WHO)「何を」(WHAT)伝えるべきかを明確にし、その上で最適な手法を選択することが重要です。今回は、この部分に焦点を当て、効果的なマーケティング戦略の立て方を具体例を交えながら紹介していきたいと思います。
HOW(手法)にとらわれない
不動産業界のマーケティングにおいて、多くの企業が手法(HOW)にばかり注目しがちだと感じます。しかし、手法だけに捉われていると、戦略全体が見えなくなり、本来の目的を達成するのが難しくなります。ここでは、手法に捉われないための考え方とその重要性について説明します。
HOW(手法)とは
まず先に私が指摘している「HOW」とは何なのか?について説明していきたいと思います。マーケティングにおけるHOWとは「どのように?」の事で、すなわち手法の事を指します。例えばこの記事の冒頭でも述べたSEO対策やリスティング広告、SNSマーケティング等の消費者にアプローチする様々な手段の事です。
これらの手段は適切な使い方をしてこそ初めてその価値を発揮します。逆に言うと、手段が適切ではない場合、全くもって効果のない手段になってしまうのです。この記事を読んでくださっている方でこんな経験は無いでしょうか?
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リスティング広告をやってみたけど思ったような効果を得られなかった。
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インフルエンサーに依頼してみたけど問い合わせに繋がらなかった。
HOWが適切に選択されていない場合、このような事態は往々にして起こりえます。では、どのようにすれば、適切にHOWを選択することが出来、かつその価値を最大限に発揮できるのかについて説明していきたいと思います。
WHOとWHATを意識する
WHO(目標)とWHAT(戦略)の重要性
マーケティングの成功には、まず目標(WHO)を明確にすることが重要です。例えば、目的が「認知度を高める」「問い合わせ数を増やす」「成約率を上げる」等の場合、「誰の認知度を高めるのか?」「誰からの問い合わせ数を増やすのか?」「誰の成約率を上げるのか?」といった具体的なターゲットを設定することで、その目標(WHO)に向かって効果的な戦略を立てることができます。
また、このようにターゲットを設定する事で限りあるリソースを集中投下させることが出来る為、後の戦略や戦術の効果を高める事も可能となります。
次に、戦略(WHAT)を策定します。戦略とは、目標に対してどのようなアプローチを取るかを決定することです。マーケティングの文脈において戦略(WHAT)とは、商品やサービスが消費者に提供する価値や便益のことです。ターゲットに対して、どのような価値や便益を訴求していくのか?を明確にすることで、目標をに対して効果的なアプローチが可能となります。
ターゲット(WHO)を明確にする方法
ここからはターゲットを明確にするための具体的な方法を説明していきたいと思います。
- ペルソナの設定:
- ペルソナとは、ターゲット顧客の具体的な人物像を描いたものです。年齢、性別、職業、ライフスタイル、価値観などを詳細に設定します。例えば、新築マンションのターゲットが30代の共働き夫婦であれば、彼らのニーズや関心事を具体的に想像します。
- 市場調査:
- ターゲットがどのような特性を持っているかを理解するために、市場調査を行います。年代、職業、収入、家族構成、住居に求める条件などを調査し、データを収集します。これにより、ターゲットの具体的なニーズを把握できます。
- アンケート調査:
- ターゲットのニーズや関心事を把握するために、アンケート調査を実施します。例えば、「理想の住まいに求める条件は何か?」、「物件選びで重視するポイントは何か?」などの質問を通じて、ターゲットの具体的な要望を明らかにします。
提供する価値(WHAT)を明確にする
ターゲットが明確になったら、次に彼らに提供する価値を明確にします。提供する価値とは、販売していきたい商品やサービスがターゲットに対してどのような便益をもたらすかという事です。
- 価値提案の作成:
- ターゲットに対して、商品やサービスがどのように役立つかを明確にします。例えば、「都心へのアクセスが良好な新築マンション」や「ファミリー向けの充実した設備を備えた物件」など、ターゲットのニーズに応じた価値提案を行います。
- 顧客インサイトの把握:
- ターゲットが何を求めているかを深く理解するために、顧客インサイトを把握します。例えば、共働き夫婦が求める「子供の送り迎えの大変さ」などのインサイトをもとに、具体的な訴求ポイントを設定します。
※インサイトについてはこちらの記事をご覧いただくと分かりやすいかもしれません。
- フレームワークの活用:
- ターゲット設定や価値提案に役立つフレームワークを活用します。例えば、STP分析(Segmentation, Targeting, Positioning)や4P分析(Product, Price, Place, Promotion)を用いて、ターゲットと提供する価値を体系的に整理します。
※マーケティングのフレームワークについてはこちらの記事で詳細に解説しています。
WHOとWHATが定まればHOWは見えてくる
目標(WHO)と戦略(WHAT)が明確になれば、どのような手法(HOW)を使うべきかは自然と見えてきます。例えば、ターゲットが30代の女性(ここでは分かりやすく簡単に設定)であれば、Instagram広告やリスティング広告を利用して効率的に情報を届けることが考えられます。ここで「商品特性によってもHOWは左右される」と考えられるかもしれませんが、WHOとWHATが明確に決まっていれば、商品特性に基づいた設定になっているはずなので、HOWがぶれる事は無いのです。
データドリブンを取り入れる
ここまではWHOとWHATの重要性について書かせて頂きました。ここからは更に不動産業界のマーケティング加速させるデータドリブンマーケティングについて記載していきたいと思います。データドリブンとは、データに基づいた意思決定を行うことを指し、近年では多くの企業が取り入れているマーケティング手法です。
データドリブンの重要性
データドリブンのアプローチは、効果的なマーケティング戦略を構築するための基盤となります。以下のポイントを押さえて、データドリブンの重要性を理解しましょう。
- 効果的な意思決定: データに基づいて意思決定を行うことで、直感や経験だけに頼らず、客観的な情報を元にした判断が可能になります。これにより、マーケティング施策の成功確率が高まります。
- パフォーマンスの最適化: データを活用することで、マーケティング活動の効果を定量的に評価し、改善点を特定することができます。例えば、広告のクリック率やコンバージョン率を分析し、最適化することができます。
- ターゲットの理解: 顧客データを分析することで、ターゲットとなる顧客層のニーズや行動パターンを深く理解することができます。これにより、より効果的なマーケティングメッセージを作成することが可能です。
具体的なツールの紹介
データドリブンを実現するためのツールには、さまざまなものがあります。以下は代表的なツールとその活用方法です。
- Google Analytics(GA4)
- ウェブサイトのトラフィックを分析し、訪問者の行動を把握するツール。ページビューや滞在時間、直帰率などのデータを収集し、ウェブサイトの改善点を特定します。
- 具体的な使い方として、訪問者がどのページから離脱しているかを分析し、そのページの内容を改善することが挙げられます。
- CRMシステム(キントーン)
- 顧客の情報を一元管理し、顧客との関係を深めるためのツール。顧客の購入履歴や問い合わせ履歴を管理し、個別対応を強化します。
- 例えば、顧客が過去に問い合わせた物件の情報を元に、類似物件を提案することができます。
- マーケティングオートメーションツール(Adobe Marketo Engage)
- マーケティング活動を自動化し、効率的に実行するためのツール。リードの育成やメールマーケティングなどを自動化します。
- 例えば、新規リードに対して自動でフォローメールを送信し、育成プロセスを効率化します。
統計手法の活用
データドリブンアプローチを強化するためには、統計手法の活用も重要です。以下は代表的な統計手法とその活用方法です。
- 回帰分析
- 価格設定や広告効果の予測に使われる統計手法。広告費と問い合わせ数の関係を分析し、最適な広告予算を決定します。
- 例えば、過去の広告キャンペーンのデータを基に、次回キャンペーンの予算を最適化します。
- 因子分析
- 顧客の購買行動や満足度の要因を特定するための手法。顧客満足度調査の結果を分析し、改善点を明らかにします。
- 例えば、アンケート調査のデータを用いて、顧客満足度に影響を与える要因を特定します。
- クラスター分析
- 顧客をグループに分類し、それぞれのグループに最適なマーケティング戦略を立てるための手法。顧客を「初回購入者」「リピーター」「VIP顧客」に分類し、それぞれに異なるアプローチを取ります。
- 例えば、リピーター向けには特典付きのキャンペーンを実施するなど、ターゲットごとに異なる戦略を展開します。
まとめ
不動産業界でマーケティングにおいて成功を収めるためには、戦略的なアプローチが欠かせません。まず、「WHO(誰に)」「WHAT(何を)」を明確にし、手法(HOW)に捉われないことが重要です。ターゲットとなる顧客層と、彼らに提供する価値を具体的に定義することで、効果的なマーケティングメッセージを作成できます。
さらに、データドリブンのアプローチを取り入れることで、マーケティング活動の効果を最大化できます。Google AnalyticsやCRMシステム、マーケティングオートメーションツールを活用し、データに基づいた意思決定を行いましょう。