世界を代表する自動車メーカー「トヨタ」は、なぜこれほどまでにグローバル市場で成功し続けているのでしょうか?
その答えを紐解く鍵のひとつが「STP分析」です。
本記事では、マーケティング戦略の基礎フレームである「STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)」を用いて、トヨタのブランド戦略をわかりやすく解説します。
- トヨタの強みは“全方位戦略”?
- セグメント別のアプローチとは?
- ポジショニングマップで見る立ち位置とは?
こうした疑問を解説し、マーケティングの実務や学習に役立つ情報をお届けします。
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STP分析とは?【マーケティング戦略の基本】

STP分析は、以下の3つのステップからなる市場分析手法です。
項目 | 内容 |
---|---|
Segmentation(市場細分化) | 市場を共通のニーズや特徴で区分けすること |
Targeting(標的市場の選定) | セグメントの中から自社が狙う市場を絞ること |
Positioning(差別化・位置づけ) | 顧客の頭の中でのブランドの「立ち位置」を明確にすること |
企業はこの3ステップを通じて、戦略的に「誰に・何を・どうやって届けるか」を設計します。
トヨタのセグメンテーション【S】

トヨタのマーケティング戦略の核にあるのが、「マス市場」を細かく分類し、あらゆるニーズに応えられる商品群を用意する精緻なセグメンテーション戦略です。
デモグラフィック(人口統計)軸
軸 | 主なセグメント | 主な車種 |
---|---|---|
年齢 | 若年層 | ヤリス、カローラスポーツ |
子育て世代 | シエンタ、ノア、ヴォクシー | |
シニア層 | カローラ、プリウス | |
世帯構成 | 単身世帯 | アクア、パッソ |
ファミリー層 | シエンタ、アルファード |
特に注目すべきは、ライフステージごとの「次の車」需要を捉える設計。たとえば、若年層には購入しやすい価格帯のヤリス→ファミリー化でノア→子離れ後にクラウンというような“ライフタイムバリュー最大化”を志向した設計がされています。
サイコグラフィック(価値観・志向)軸
志向 | 顧客特性 | 車種例 |
---|---|---|
環境意識 | 燃費・排ガスに敏感 | プリウス、アクア |
スポーツ志向 | 操作性や走行性能を重視 | GRヤリス、スープラ |
ブランド志向 | 高級感・所有満足度を求める | クラウン、レクサスLS |
実用志向 | 広さ・使いやすさ重視 | シエンタ、ルーミー |
つまり、トヨタは単に“年齢・家族構成”だけではなく、価値観・ライフスタイルまで加味した多軸的セグメンテーションを行っています。
トヨタのターゲティング【T】

トヨタは「1セグメント=1ブランド」ではなく、複数ブランドでセグメントを網羅的にカバーするターゲティング手法を採用しています。
マスマーケット向け
セグメント | 主な車種 | 戦略的特徴 |
---|---|---|
都市部の若年単身層 | ヤリス、アクア | コンパクト×低燃費×低価格 |
子育てファミリー層 | ノア、ヴォクシー、シエンタ | スライドドア×大容量×安全性 |
シニア世代 | カローラ、プリウス | 視認性×運転支援×安心設計 |
これらのモデルは「トヨタ=安心・無難・高コスパ」というブランドイメージを強化する役割を担っています。
プレミアム&ニッチ市場向け
セグメント | 主な車種 | 戦略的特徴 |
---|---|---|
高所得層(富裕層) | クラウン、レクサス | 高級感×所有欲×ステータス性 |
走り志向層 | GRシリーズ、スープラ | スポーツ性能×限定性×趣味性 |
環境意識の高い層 | 水素自動車「MIRAI」 | カーボンニュートラルの象徴 |
注目すべきは、トヨタは“市場全体を取りに行く”ことを否定せず、広く浅くではなく「広く、深く」ターゲティングしている点です。特にGRやMIRAIのような少量生産型商品でもしっかり戦略的な位置づけがされています。
トヨタのポジショニング【P】

ポジショニングとは「顧客の頭の中でどう記憶されるか」を設計することです。トヨタは、主に以下の3点で独自のポジションを築いています。
「壊れない」「燃費が良い」という“信頼性”の記憶
これは、80年代以降の品質管理の徹底によって世界中に広まったブランド資産です。特に発展途上国では「トヨタ=一生モノの車」として絶大な信頼を得ています。
「選べる」という“ラインナップの幅”による安心感
- 軽からセダン、SUV、ミニバン、EV、水素まで網羅
- 年齢や収入、趣味、価値観に応じて最適な一台が選べる
これは「トヨタを選べば間違いない」という極めて強いブランド信頼の形成要素です。
「技術革新の象徴」としてのポジショニング
- 世界初の量産ハイブリッド:プリウス
- 水素自動車:MIRAI
- 全固体電池など、EV化も視野に入れた研究開発
トヨタは「単なる自動車メーカー」ではなく、“未来のモビリティ企業”としてのブランドポジションへとシフトしています。
このように、トヨタのSTP分析を深く見ていくと、単なる「多くの商品を出している企業」ではなく、「誰の、どんな課題にも対応できるブランド」として、意図的に市場を取りに行っていることがわかります。移動の価値」を提供する企業として、ポジショニングを明確にしています。
STP分析から見えるトヨタの戦略的意図とは?

トヨタは「誰にでも最適な車を」という思想のもと、セグメントの隙間を埋めるような商品展開をしています。
- 多様なニーズに応える全方位戦略
- 地域・所得層・用途すべてに対応した製品開発
- ラグジュアリー層にはレクサス、コア層にはハイブリッドなど多面的展開
この戦略が「グローバルNo.1ブランド」としての地位を支えているのです。
まとめ|トヨタのSTP分析に学ぶマーケティングの本質
トヨタのSTP戦略は、単に市場を分けてターゲットを絞るだけでなく、「顧客の多様なニーズに応え続ける」点において他社と一線を画します。
マーケティングを学ぶ上でも非常に参考になるケーススタディです。
特に「中小企業におけるSTP活用」にも通じるヒントが多く、業種を問わず応用できる知見と言えるでしょう。
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