世界の自動車業界は今、大転換期を迎えています。電気自動車(EV)や自動運転技術、カーボンニュートラルへの対応、そして新興メーカーの台頭。こうした環境下で、日本を代表する企業「トヨタ自動車」はどのような競争環境に置かれているのでしょうか。
そこで有効なのが、競争戦略の大家マイケル・ポーターが提唱した「5フォース分析」です。本記事では、トヨタを取り巻く競争環境を5つの視点から解き明かし、今後の戦略的示唆を導きます。
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5フォース分析とは?

5フォース分析(Five Forces Analysis)とは、以下の5つの要因によって企業の競争環境を評価するフレームワークです。
- ① 業界内の競争(既存企業との競争)
- ② 新規参入者の脅威
- ③ 代替品の脅威
- ④ 買い手(顧客)の交渉力
- ⑤ 売り手(仕入先)の交渉力
これにより「利益率が高い業界かどうか」「新規参入が難しいか」などを客観的に判断できます。
自動車業界の構造とトレンド
自動車業界は製造業の中でも特にグローバル競争が激しい業界です。主要プレイヤーはトヨタ、フォルクスワーゲン、GM、BYDなど。さらにEV市場ではテスラや中国勢の急伸が業界構造を揺さぶっています。
以下の3つの要素が構造的な変化を促しています。
- EV・自動運転の普及:エンジン系部品が不要になることで、サプライチェーンが激変。
- 新規プレイヤーの登場:IT企業やスタートアップが参入しやすい構造に変化。
- 消費者ニーズの変化:車を「所有する」から「利用する」へ。カーシェアやサブスク型サービスが浸透。
このような変化を踏まえ、トヨタはどのような競争環境に直面しているのか、5フォースで分析していきます。
トヨタの5フォース分析

① 業界内の競争の激しさ:非常に高い
トヨタは2024年に世界販売1,100万台を達成し、フォルクスワーゲンや現代自動車グループを抑えて首位を維持しています。
ただし、EV分野ではテスラ、中国BYDに後れを取っているとの評価もあり、今後の競争はさらに激化する見込みです。トヨタはHV(ハイブリッド)を軸とする一方、2026年には全固体電池EVの投入を予定しており、内燃機関とEVの“二刀流”戦略で勝負しています。
競争が激しい最大の要因は以下の通りです:
- グローバル市場でのシェア争い
- ブランド間の性能・価格競争
- 短期的なEV開発速度の差
② 新規参入者の脅威:中程度
自動車業界は本来、参入障壁が高い業界ですが、EV化によりその構造が一変しました。
- 生産ラインが従来より簡素化(内燃機関不要)
- ソフトウェア重視によりIT企業の参入が容易
- 実際にAppleやXiaomiといった異業種が参入意向を示す
とはいえ、トヨタが培ってきた「品質管理」「製造技術」「販売網」は模倣困難であり、総合的には新規参入の脅威は中程度に留まるでしょう。
③ 代替品の脅威:高まりつつある
代替品とは「クルマを使わなくてもいい選択肢」のことです。
- 都市部におけるカーシェアリング・サブスクリプション
- 自転車や電動キックボード
- MaaS(Mobility as a Service)の発展
特に若年層の車離れが進む中、都市部を中心に「所有しない移動手段」が浸透しています。これは長期的にトヨタのビジネスモデルを揺るがすリスクとなります。
④ 顧客の交渉力:やや高い
近年、顧客は情報収集力が高まり、価格比較・オンライン購入も一般的になりました。さらに、「環境対応」「走行性能」「価格」など複数の軸で判断されるため、ブランドへのロイヤルティも相対的に下がっています。
ただし、トヨタは国内外で高い信頼性・安全性を確保しており、価格競争だけでの消耗戦に巻き込まれにくいポジションも維持しています。
⑤ 供給業者の交渉力:比較的低い
トヨタは「カイゼン」や「ジャスト・イン・タイム」に代表される独自のサプライチェーン最適化で知られています。
- 主要部品は系列会社が供給
- 生産現場とサプライヤーが密に連携
- 複数調達で特定サプライヤーへの依存を避ける
その結果、部品メーカーの交渉力は他社に比べて低く抑えられており、原価管理でも優位な立場にあります。
PEST・SWOTとの併用で全体像を見る

5フォース分析にPEST分析を加えることで、トヨタを取り巻く「外部環境の全体像」がよりクリアになります。
視点 | 例 |
---|---|
政治(P) | 脱炭素化政策/EV補助金 |
経済(E) | 円安による輸出益/原材料高騰 |
社会(S) | 若年層の車離れ/安全志向 |
技術(T) | 自動運転/全固体電池/ソフトウェア定義車両(SDV) |
またSWOT分析では、トヨタの強み(信頼性・グローバル展開)、弱み(EV分野の出遅れ)、機会(EV市場の拡大)、脅威(新興プレイヤーの台頭)といった点が浮かび上がります。
参考記事:
今後のトヨタの戦略と5フォース的示唆
5フォース分析をもとに、トヨタが今後取り組むべきポイントは以下の通りです。
- 競合との差別化を進める:HVとEVの並立戦略を深化させ、「選べるトヨタ」を打ち出す
- 顧客接点の強化:サブスクやオンライン販売、アフターサービスの充実でロイヤルティ維持
- サプライ網の柔軟性:地政学リスクを踏まえた多元化・BCP対策
- EV・SDV開発の加速:競合より早く、しかも高品質な新車投入が鍵
特に「EVだけに集中しない」というトヨタの慎重かつ柔軟な戦略は、他社とは一線を画しており、中長期で見れば持続的競争優位性を維持する可能性が高いと考えられます。
まとめ
トヨタのような巨大企業でも、競争環境の変化から逃れることはできません。しかし、5フォース分析を通じてその構造を可視化し、次なる打ち手を導くことができます。
本記事を通じて、5フォース分析の有用性と、トヨタの今後の戦略のヒントがつかめたのではないでしょうか。マーケティングや経営に関わる方にとって、実務に応用できる考察になれば幸いです。